いま、日本のチーズがおもしろい
十勝のチーズ工房を巡る旅 Vol.2
2025年12月30日投稿
■TOYO Cheese Factory
2日目は「TOYO Cheese Factory」からスタートです。
私たちを迎えてくれたのはオートバイとホクホク牛乳の車。
車好きの長原夫妻。ふたりともハンドルを握ったらぶっ飛ばします。


十勝は農業王国であり、酪農も盛んです。
東陽製袋株式会社の新規食品事業部として、2020年3月のコロナ禍の中、チーズ工場が落成こそしたものの、世界的なパンデミックにより計画は白紙になってしまいました。
しかし、社長の長原覚氏はそこで諦める人ではありません。

通常販売できないのであれば、会員制にして会員限定で届けようと、10年間も試行錯誤して完成した美しいパッケージの「age」をオシャレなパッケージに仕立てて販売がスタートしました。
製造担当者は社長の甥っ子の七海一樹さん。フェルミエ主催のツアーで訪れたフランスはコンテで、造りたいチーズがひらめいたと言います。十勝管内の4牧場の生乳を自社のタンクローリーで集荷して、それぞれの乳にあったチーズを製造しています。
営業を担当するのは、2021年のMondial du Fromage(フランス、トゥールで開催)で見事世界3位に輝いた長原ちさとさん。チーズプラトーのセンスはもちろん、営業力もハンパありません。チームワークの良さは家族だからでしょう。お互いに支えあいながらも品質にこだわり、お客様を大事にしてきたからだと思います。
今回の旅のコーディネートをすべて任せられるのは、すべて彼女のおかげ。今回も胸が熱くなる訪問でした。
チーズ製造は2階からガラス越しに見られます

製造担当は七海一樹さん。Age07は七海の7とのこと。
美味しさの秘密は七海牧場の乳だけで製造するからです。「鰹」は日本酒と合わせて、いかが?

■しあわせチーズ工房
「しあわせチーズ工房」を訪ねるのは何年ぶりだろう?
私たちの到着を待っていてくれたのは、本間幸男さんと「ありがとう牧場」の吉川さんでした。足寄町の茂喜登牛(もきとうし)地区は急な土地が多く畑作に向かないこともあり、酪農が盛んだといいます。この「茂喜登牛」という名前、実は牛の種類ではなく、土地の名前なのです。

ここでチーズ職人として働く本間幸男さんは長野県、八ヶ岳や蓼科高原に囲まれた自然豊かなところで育ち、チーズ職人を目指したといいます。共働学舎で学び、つぎに出会ったのが「ありがとう牧場」の吉川さんでした。搾りたての乳でチーズをつくればいいと、資金提供までしてくださり、ありがとう牧場のとなりに幸男の名前がついた小さな工房「しあわせチーズ工房」が誕生したのです。
牛たちに会いに行くにはちょっと遠すぎるので、育成牛を連れてきてくれました。
人懐っこい牛たち。ホエーをおいしそうに飲む豚さんもいました。
工房にはこだわりの銅鍋が!放牧牛のミルクでチーズをつくるこだわりの職人!
しっかりものの奥さん、ひとみさんにお会いするのは初めて!
ランチはチーズサンドと牛乳とこだわりの珈琲、そしてアイス。
移動中にageバーガーもいただきました。
幸せそうな牛たち

黒い豚もしあわせそう!

製造所は銅鍋がピカピカに磨かれてつるさせていました。

本間幸男さんとひとみさん

放牧牛乳、アイス おいしかった



■十勝ヶ丘ワイナリー
しあわせチーズ工房から70分。
十勝ヶ丘ワイナリーに到着。十勝のぶどう園で育てたぶどうで高品質のワインを丁寧に醸造するワイナリーは2020年に建設が始まり、2025年1月に完成。4月15日に落成式が行われました。十勝品質事業部の佐藤理事長に案内していただきました。
オーガニックの「山幸」と「清舞」。12,800本の生産を見込んでいるとのこと。



■十勝ラクレットモールウォッシュ 熟成庫
続いて、十勝ブランドの「十勝ラクレットモールウォッシュ」熟成庫の見学です。
十勝管内で搾られた生乳を100%使用し、十勝の職人がつくる共同規格のラクレットチーズを、十勝川に沸くモール温泉水で磨いて仕上げる特別なラクレットです。

農水省からGIに認定された「TOKACHI PRAIDE」。
製造室ではないのに、携帯電話以外はすべて外して、白衣にマスクをつけての見学です。
熟成室に並ぶ2,000個ラクレットは6つ工房でつくられたもの。
熟成は人手がかかります。それを熟成士が徹底管理することで質の高いラクレットを安定的に提供できることはすばらしいと思います。
試食のラクレット、美味しくいただきました。
宿泊は十勝川温泉。私たちもモールウォッシュされてピカピカです。


■鈴木牧場
さて、いよいよ旅も最終日。十勝川温泉から南に80分下ります。
太平洋沿いにある、TOYO Cheese Factory が契約する鈴木牧場です。
晴天で潮風を感じる放牧地の牛たち。むしゃむしゃ元気に草を食む咀嚼音が聞こえてきます。


最高のお天気と潮風感じる放牧地の牛さん
むしゃむしゃ元気に草を食む咀嚼音が
生きる力を感じさせてくれました
鈴木牧場の4代目、敏文さんからお話を伺いました。地球にやさしい循環型酪農を目指してオーガニック認定グラスフェッド規格を取得。獣医師の奥様のなつきさんのアドヴァイスで今のスタイルに変更。おかげで牛たちのストレスがなくなったと言います。
冷凍牛乳とオーガニック生乳のチーズ2種を試食させていただきました。


最後に、牧草を主食にする乳牛は、そのままでは塩分を摂取しにくいため、ここでは塩をつくっているというから驚きます。牛のために始めた塩づくり、なんと人間用にも販売していました!
1トンの海水をいれて5日間煮詰めてつくります。
燃料は薪を使うことで遠赤外線効果でよりおいしくなるそうです。
塩の製造過程ででる「にがり」は畑のマグネシウム不足を補うので、堆肥と一緒に畑に散布。


■加藤牧場
次に訪ねたのは、140頭のホルスタインと80頭のジャージー牛を飼育する加藤牧場です。加藤会長が馬と一緒に私たちの到着を待っていてくださいました。
会長は73歳、学校給食で飲んできた脱脂粉乳と友人宅で飲んだ牛乳の美味しさの違いに衝撃を受け、実家の畑作農家を継がず、酪農の道を選んだといいます。
道内の研修を経て、単身でカナダに。糞尿を堆肥にして畑に還元して、良質な土から牧草をつくる仕組みを実現しようと3年後に帰国。お父さんが買い取った土地で12頭のホルスタインを育てるところからスタートしました。
2006年からは飲むヨーグルト、アイスクリーム、チーズ、バターを製造しています。
優しい笑顔の加藤会長。
牛ではなく、馬をと一緒に迎えてくださいました。


日本には10,000頭のジャージー牛がいると言われます。北海道には約800頭。その1/10が加藤牧場にいるということですね。

■あいざわワイナリー
旅の締めくくりは十勝に56年ぶりにこの地に誕生したというあいざわワイナリー。
池田町の十勝ワインは道産ワインの草分けとして有名ですが、あとに続くワイナリーは出現しなかったといいます。相澤一郎さんのお父さんは不動産業の傍ら山林や原野を2ヘクタール購入して畑をつくり、ぶどう栽培を始め、いつかワインを造りたいという夢を持っていました。その夢を一郎さんと里奈さんご夫妻がついに実現させたのです。
寒暖差が大きく、ぶどうの栽培は不適地と言われていましたが、寒冷地でも育つヤマブドウ系のハイブリッド品種である「山幸(やまさち)」と「清舞(きよまい)」からオリジナルのワインが完成したのです。





今回も学びの多い、楽しい旅になりました。
コーディネートの長原ちさとさんに感謝です。
おわり
十勝のチーズ工房を巡る旅 Vol.1
2025年12月26日投稿
2025年5月21~23日
今回は羽田から15名が飛び立ち、現地で大野淳子さんと大和ちひろさんが合流。それにコーディネートの長原ちさとさん、添乗員の磯谷奈々さん、主催者の本間るみ子の20名のツアーでした。初の参加者もいましたが、すぐに意気投合でした。

■キサラファーム
先週の天気予報は雨だったのに、雲一つない晴天!日高山脈もしっかり見えました。


空港から約1時間でキサラファーム(十勝千年の森チーズ工房「ランラン・ファーム」)に到着。ここで山羊を飼い、チーズをつくっているのが斉藤真さんです。久しぶりにお会いしましたが、山羊への愛は変わっていません。彼はストレスのない日本一幸せな飼育環境を目指して70頭を飼育してチーズを作っています。


山羊たちがかわいい!
ストレスフリーの放牧地。

この春に生まれたばかりの子山羊たちは人懐っこくてかわいい。真さんを走って追いかけるのは、ミルクをくれるお母さんだと思っているのかもしれません。
子山羊たちに癒されたあとは、新得そばの館でランチとなりました。


■共働学舎新得農場
十勝といえば新得共働学舎!


井ノ口さんも一緒に待っていて下さり、感動!

なんと、テラスで宮嶋さんとおしゃべりしているのは白糠酪恵舎の井ノ口さんではないですか。私たちの到着を待っていてくれたのです!
日本のチーズの発展には宮嶋さんの力が大きい。
1991年に開催された「十勝サミット」を企画したのも彼ならその前年にフランスAOC会長のジャン・ユベールを招聘してセミナーを開催したのも彼。私が初めてお会いしたのは1992年、チーズ専門誌アリスティアスの取材でした。
それから頻繁にお会いするようになり、2000年に発足したCPAの副会長としても貢献していただきました。




自由には歩けなくなったけど、話は何時間でもできるよ!と宮嶋さん。
今回も時間がたりませんでした(笑)

旅の初日のディナーは、TOYO Cheese Factoryの長原覚会長が私たちのために会員制クラブを貸し切ってくださいました。お鮨に加え地元の幸のオンパレード。どれもため息がでるほどおいしい。



ちさとさんの美しいチーズボードにもため息が出ましたが、ラクレットも、短期間でさっと焼いてくれました。なにより、笑顔でのサービスが彼女の真骨頂。



ちさとさんのコーディネートに感謝です。
(つづく)

道南のチーズ工房を巡る旅 Vol.2
2025年09月10日投稿
2024年9月2日~4日
■トワヴェール(黒松内町特産物手作り加工センター)
旅の2日目の9月3日、日本最北端で最大規模のブナの原生林を持つ黒松内町にあるトワヴェールは雄大な自然を多くの人に知って楽しんでもらいたいと1993年5月にオープンしました。開業前から佐々木さんやチーズ製造担当者の和田英樹さんと何度もお会いしていましたから、懐かしい思い出がたくさんです。
私たちを迎えてくださったのは工場長の成田隆志さん。19歳で入社して、この道ひと筋。すでに20年だといいます。美しい大理石模様の「ブルーチーズ」は 2011年の ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテストの青かび部門で金賞を受賞。JAL国際線のファーストクラスの機内食に2回も採用されたそうです。チーズ製造の様子を2階から窓ガラス越しに見学させていただき、試食タイムとなりました。
ガラス越しからの見学

工場長の成田さん


■アンジュ・ド・フロマージュ
札幌で「サロン・ド・テ」を経営されていた西村聖子さんはお料理が大好き。食の楽しさや喜びを共有できる場を持ちたいと、チーズ製造40年のキャリアを持つ三浦先生と、チーズをつくりたいという熱意がある射場さんとの3人で、2011年にここを開設しました。
「アンジュ」とはエンジェル! 聖子さんにぴったりのネーミングに唸ってしまいます。
喜んでもらうことが幸せだという聖子さんファンは多いと思います。私もファンのひとりとして、札幌のサロンを何度も訪ねたことが懐かしく思い出されます。
なんとこの日は私たちのために、朝の5時から準備してくださったという心づくしのランチ。
製造しているチーズは定番の12種類。それに加えて季節限定のシェーヴルや季節の果物や山菜をアレンジした創作チーズなど、年間で25種類以上もつくっているそうです。
すっかりと貫禄がついたチーズ製造責任者の射場さんと彼の元で頑張っているキュートな唯さんと千明さん。2人の力も大きいと思います。
聖子さんはスイーツとレストランを運営し、食のフォーラムやコンサートも企画。全国からファンが集うわけです。ブナセンターの今田奈々子さんが、トワヴェールでお世話になった佐々木さんが好きだったというどら焼きを持ってきて下さったのは嬉しいサプライズでした。
おしゃべりに夢中になり時間が経つのが早いこと。私たちは後ろ髪をひかれながら、次の目的地に向かいました。
アンジュ・ド・フロマージュに到着
山羊たちが迎えてくれました

いつも優しくみんなに愛されている聖子さん


こころ尽くしのランチをたのしみました



■チーズ工房 CHEESEDOM
ここは2022年1月にオープンした新しい工房です。地形や気候はノルマンディに似ていて、この地でしかできないチーズをつくりたいと、オーガニック農場で放牧されるブラウンスイス牛とジャージー牛のミルクからつくるカマンベールタイプ「瀬棚」が看板商品です。
賞状がずら~り並んでいました


チーズ工房代表の齋藤正人さんと工場長の中山恵美子さんは、私達の到着を首を長くして待っていてくださいました。
チーズ工房代表の齋藤正人さんと工場長の中山恵理子さん


彼らが力を合わせて完成させたカマンベールタイプ「瀬棚」は、オープンして1年も経たない2022年10月に開催されたCPA主催の「JAPAN CHEESE AWARD」で三部門で銀賞。2023年11月に開催された中央酪農会議主催の「ALL JAPAN ナチュラルチーズコンテスト」では金賞を受賞。さらに審査員特別賞を受賞したのですから驚きます。
私たちは美しい景色を愛でながら、濃厚なカマンベールを楽しみました。
特筆したいのは、私たちの訪問後、11月にポルトガルで開催された「WORLD CHEESE AWARDS 2024」においてスーパーゴールドを受賞したというニュースです。これを聞いたときはさすがに飛びあがってしまいました。訪問できたことに感謝とともに、これからの活躍も楽しみです。
木箱にはいった「瀬棚」
濃厚でおいしい!

美しい景色もごちそうです

■チーズ工房小栗
3日目も、雲一つない晴天です。
小栗牧場の歴史は1906年に遡ります。3代目の小栗隆さんは大自然の中で育つ牛は穏やかで人にも優しく環境にもいいと、1996年に放牧飼育をスタートさせました。
その乳でチーズを製造したいと、妻の美笑子さんは2005 年にチーズ工房を立ち上げました。まずは牛さんたちに挨拶です。牛たちは木陰で気持ちよさそうに草を食んでいたのに、私たちの姿を見つけると、まるで私たちの到着を待っていたかのように、挨拶にきてくれたことは感動的です。
木陰にいた牛さんたちは私たちに挨拶にきてくれました
この時期は干し草づくりも大忙しです。たくさん積み上げられたラップロールはひとつ50kg! 湿度があると60~70kgもあるそうです。
ラップサイレージが積み上がっていました

緑豊かな牧草日。木陰もあって、牛たちの楽園です


私たちは隆さんのつくったトマトと美笑子さんがつくったモッツァレッラをいただいたあと、レストラン「ハーベスター八雲」に向かいました。
家の前の看板



案内をしてくださった長原さん(左端)と小栗さんご夫妻。フェルミエ主催のチーズツアー(オーヴェルニュ)2010年に参加くださったことを思い出します。

■山田農場チーズ工房
ランチのあとは、大沼国立公園のすぐ近くにある山田農場チーズ工房です。
山田圭介さんご夫妻は、共働学舎で出会って結婚。理想とするチーズをつくるため、2006年から斜面の農場を開墾して住居、畜舎、工房も自分たちで建てて暮らしています。
山羊と羊を放牧して、チーズづくりを少しずつスタート。販売は2008年から始めました。農場はニワトリもアヒルも自由気ままで幸せそう。牧草地の奥にはぶどう畑もあり、いよいよワイン造りまで始まるようです。

エネルギーを使わない店内

山羊たちはまるで子犬のように人懐っこくてかわいい

アイディアが形になっていくのがわかります

2011年の東日本大震災以降は、エネルギーをなるべく使わないチーズづくりをしており、熟成室も店内もまるでタイムスリップしたかのよう。



山羊や羊たちから、そして山田さんご夫妻からエネルギーをたっぷりいただき、2泊3日の旅をしめくくる幸せな時間でした。
開墾した農場は美しく気持ちいいこと!

次回の訪問がいまから楽しみです。
